いつもと変わらない朝。
いつもと変わらない風景。


そしていつもと変わらない、とある二人の大喧嘩。


その日々があまりにも“日常”すぎて、
今より先に見えるこれからの日々を、
近いはずなのに、遠く感じてしまうんだ。










隼と兎のワルツ











「フサノシンはん、あれから何時間ぐらい経ちたんやろ・・・?」
「九時半ごろ・・・だったよな始まったの。・・・じゃああれだ、ニ時間」


時計の針が正午を迎えようとする頃。
少しばかり鬱の入った顔で、二人は呟くように、ささやくように言葉を漏らした。
その原因は目下、自分達の目の前で繰り広げられる不満と文句の嵐。
ソーマとナズナ。
二人の困った主人の果て無き大喧嘩に他ならない。


「だから何故あなたはそうやって我が侭ばかり言うのですか!!」
「我が侭とは何だよ!素直な感想を言ってるだけだろ?」
「そうやって自分を正当化するのは如何なものでしょう?」
「正当化・・・ってそれじゃまるで僕の方が間違ってるみたいじゃないか!!」
「それではあなたは自分が正しいと?これだからあなたと言う人は・・・!」


そんな風に二人があまりに長い喧嘩をするものだから、
「ふぁ・・・」
と、ついフサノシンも欠伸をしてしまう。
(何だかなぁ・・・・)
心の中で何度その言葉を呟いたか知れない。
二時間と言う時間は、当の二人には短いらしく、
彼の気苦労など知る由もないのだ。


「そへん退屈にしてると、真剣に喧嘩してる二人に失礼と違います?」
そんな彼に、ホリンは茶化すように話しかけてきたのだった。


「そういうけどさ、じゃあホリンはどうなんだよ。退屈じゃないのか?」
「ウチですか?」
返される質問に彼女は、ん〜、と考えこむポーズをとった。
直後、ふぁ、と言う声が聞こえ、
「ウチもフサノシンはんと同意見です」
と、照れながら答えるのだった。


そんな二人をよそに、少年少女の喧嘩はなおも続く。
ある人に言わせればそれは微笑ましい光景、なのだが。


「・・・これからも続くのかな」
「何がです?」
「二人の喧嘩」
宙に力無く漂いながら、フサノシンは投げやりに呟いた。
「今日は久々に長い喧嘩ですから。もう数時間は覚悟しはったほうが・・・」
「え?あぁ、そうじゃなくて」
ホリンの回答に、違う違うと手を振ってフサノシンは応えた。
「もっと未来の事。二人が大人になってからの事さ」
その言葉に、彼女は目を丸くする。
「大人になってから、ですか?」
首をかしげながら、ホリンはフサノシンに問い返したのだった。


容易に想像できる、と言うのが恐い話で。
大人になっても喧嘩している二人。
その内容こそ今とは違うのであろうが、
やはりその光景は今とほとんど変わらないのではないかと、
二人して肩を落とすのであった。
それはあくまで極端な例え話であるのだが
それでもフサノシンは心配を隠す事ができなかった。


「さすがにいやだな、それ」
はは、と苦笑しながら彼は天井に目をやるのだった。
「もしかしたら今よりももっとどろどろした喧嘩になってはるかも分かりませんからね」
「えぇ・・・・」
少し、と言うかかなり意地悪なホリンの言葉に、フサノシンは低くうなり、
言った本人はと言うと自分の言葉に寒気を覚え固まってしまっていたのだった。


「もう少し仲良くなれたら、と言うか素直になれたら、とかは思うんだけど」
頭をぽりぽりと掻きながら、フサノシンは溜息交じりに言葉を漏らした。
「まぁそれは分かるんですけどなぁ・・・」


それが出来れば今まで苦労はしなかったわけで。
「困ったもんだよな。ほんとに」
少々愚痴っぽくなりながら、フサノシンはどこか遠くを見ていた。
「でも、そへんな事言うても、
フサノシンはんはそんな二人と離れたい、とは思わへんのやろ?」


ふと、優しい表情で見てくるホリンの確信めいた言葉に、
フサノシンは言葉を失った。


「・・・まぁ・・・そうだけど・・・」
頬を赤く染めながら、フサノシンはその言葉にただうなずく。
彼らと共に生きていきたい。
それは紛れもない素直な気持ち。


「きっと大丈夫ですよ。
あの二人は何だかんだ言って、信頼しおうてますから。」
クスリ、と微笑んだホリンの言葉は、
彼にとってどこか暖かくも感じられたのだった。


ソーマがナズナに。
ナズナがソーマに抱いている気持ち。
その事を、契約式神である彼らは既に気付いていた。
そして、本当は傍に居たくて、
しかし意地を張ってしまう、彼らの素直ではないところも。


「・・・うん、確かに。ホリンの言うとおりだな」
彼もまた優しく微笑み、彼女の言葉に賛同するのだった。
例えそれが分かりきった事柄でも、
自分と同じ気持ちでいてくれる人がいるのは、
何とも頼もしいものがあった。


大人になっても喧嘩する二人が容易に想像できるのは、
その時になっても、お互いに惹かれあう、
そんな二人も想像出来るからだったのだろうか。
お互いの思いを受け入れ、共に生きていく、
そんな二人を想像出来たからなのだろうか。
大声で喧嘩する二人を見ながら、
それはどうだろう、と苦笑しながらフサノシンは想いを巡らせていた。


「でもそうなると、ウチ等もこれから長い付き合いになりますなぁ」
ふと、ホリンはそれとなく呟いた。
「へ?」
こぼれるのは、フサノシンの間の抜けた声。
「・・・ですから、ウチ等もこれから長い付き合いになるかも、と言うたんですっ」
先程よりも少し強い口調で、ホリンはフイとそっぽを向きながら答えたのだった。


その反応にフサノシンはただただ呆けていて。
あぁそうか、と高鳴る自分の胸の鼓動を聞いていた。


幾多の歴史の中、この二人が同じ時代、同じ場所で巡りあうのはそれこそ運命のようなもので。
時には敵として、互いに牙を向けたこともあった。
けれど今、自分達の主は目の前で喧嘩する少年少女。
少なくとももう暫くは、この時代、この場所で生きる事ができるのだ。


「そうだな・・・、長い付き合いになるな」


そう言って、フサノシンは手を差し出した。
「・・・フサノシンはん?」
「これからもよろしくな?色々と、さ」
顔を真っ赤にしながら、彼は小さく呟いた。


「・・・はいな、これからもよろしゅうな」
ホリンもまた顔を桜色に染め、その手を差し出した。


霊体状態のまま、それは触れる事のない、重ねるだけの握手。
けれど。
その思いと暖かさは、確かに感じる事が出来たのだった。


それから数時間後。
変に照れながら話す式神二人と、
大喧嘩を繰り広げる少年少女が混在した妙な光景を、
中学から帰宅したリクとコゲンタは目撃することになる。


出会いという奇跡の下、
彼らは今日もその日々を生きていく。


それが、これからも続いていくと信じて。


少し先の未来を、夢見ながら。





fin.






リクエスト、“ソーマとナズナの喧嘩中に2人のこれからを話し合うフサノシンとホリンの小説”、
という事で書かせてもらいました!!
結局カプ話に持っていってしまった私です。(爆)
ただ、これからのことを話し合えたか、と言うところは少し自信が無い・・・。
気に入って頂けたでしょうか?


時期は本編終了前。
フサノシンは、ソーマが社長になりたいとかそういうのを知っていたかは微妙だったため、
あえて二人の喧嘩について、と言う風に話をまとめさせて頂きました。
そしてそこからフサホリに持っていくという・・・。(笑)
一番苦労したのはホリンの京都弁。
アニメで使用された京都弁は、分かりやすさを重視したのか純京都弁では無かったため、
書きづらい事書きづらい事・・・。
方言は難しい!!(笑)


ではではリクエスト、本当にありがとうございました!!

戻る

2005/10/24