よく晴れた午後。
小学校の校庭で、子供達はこぞって自作の風車を回していた。
色とりどりのその風車たちは、
風に吹かれ、美しくその羽を煌めかせていた。


そんなのどかな風景を、
少年は一人、ぼ〜っと眺めていたのだった。










静かな午後を風車と










「何をしているのですか?」
少年はその言葉に振り返ることなく、
「風車を作ってるんだよ」
とそっけなく答えた。


その態度にナズナは一瞬むっとしながらも、
先程から手に持っていた洗濯物の入ったかごを床に置き、
すとん、と座り込んだ。


見ればテーブルには無造作に道具やら材料やらが散らばっていて、
その汚さに少女ははぁ、と思わず溜息をついてしまった。


「・・・ちゃんと片付けておくのですよ」
「分かってるよ!!」


子ども扱いをするように話しかけてきたナズナの言葉に瞬時に反応し、
振り向き怒る様は、どこか可愛いものがあるのを少女が感じてしまうのは、
それもまた一つの事実なのだが。


「よし出来た!!」
先程のやり取りから十数分の時が経った頃、
ソーマは唐突に完成を喜ぶ声を上げた。
その言葉を受け、ナズナが洗濯物をたたむ手を止めソーマのほうに目を向ければ、
その手には少し不格好だが、しっかりと風車が握られていた。


満足そうににやけながら、ソーマは風車に息を吹きかけ、
カラカラとその羽を回し楽しんでいた。
はたから見れば、それは大卒を果たした少年には到底見えなくて。
そのギャップがどこか可笑しくて、
少女は胸の奥が暖かくなるのを感じていた。


「それにしても何故いきなり風車なのですか?」
「え?」
ふと少女が口にする素朴な質問。
それは先程のギャップが物語るように、
彼にとっては実に珍しい行動で。
そんな違和感を感じた彼女の言葉に少年は振り返り、
「あぁそれは・・・」
と、言葉を続けたのだった。


「小学生が、ですか」
きょとんとした顔で、ナズナはソーマに言葉を返した。
「うん。それ見てたら何か懐かしくなっちゃって」
そう言ってまた、ソーマは風車に息を吹きかけた。
「昔、母さん達と散歩してたときに見て以来かな、なんて」
駄菓子屋で売っているのを見かけたきりだと、
少年は言うのだった。


その言葉に、ナズナもまた少し昔を思い出す。
彼女もまた、幼い頃イヅナ等と京都の町を散歩していた時、
幾つもの風車が、小さな駄菓子屋に飾られている光景を見ていたのだ。
「本当に、最近はあまり見かけませんね」


戦いの日々。
それ故に気付かぬだけかもしれないが。
少なくとも彼らの周りに、それは存在しなかった。


「私も・・・、作ってみてもいいでしょうか?」
洗濯物をたたみ終えたナズナは、ソーマの方に体を向け、
ついつい改まって訊ねてしまった。
「ん?そんな事聞くなよ。道具も材料も十分余ってるんだしさ、勝手に作れよ」
ぶっきらぼうに答えるソーマにうなずき、
「では」
と彼女は材料に手を伸ばした。


その手先と言えばまた器用なもので。
ソーマは風車を吹きながら、その指先の動きを目で追っていた。
細く、白い指先。
ただそれだけの事なのに、ソーマは一人、
自らの胸の高鳴りを感じていた。


「こんなものですかね?」


その声に、はっと我に返ったソーマが見たのは、
綺麗に作られた風車の姿。
「・・・お前って本当に器用だな・・・」
自分の風車とを見比べながら、ソーマは顔を引きつらせながら呟いた。
「あら?褒めてくださるのですか?」
ふぅっと、手に持つそれに息を吹きかけながら、
ナズナはそんなソーマに意地悪そうに笑いかけた。
「・・・だっ・・・誰が!?」
彼女の仕草にまた胸を高鳴らせたのか、
顔を真っ赤にしながらソーマが口にするのは
少女に対する否定の言葉。
その様子がおかしくて、
ナズナはまた、口元を緩めてしまうのだった。


くるくると回る風車。
昔から変わらぬその姿だから、
ふと、その姿を見て懐かしさを感じてしまうのだろうか。
小さな小さな風車。
のどかな午後に思う些細な事。
そんな午後もたまには良いと、二人は幼ながらに思うのだった。
暖かな感情に、その身を預けながら。


―――お、風車じゃねぇか
―――ホントだぁ。珍しいねぇ
―――ソーマ君とナズナちゃんが作ったんだよ。上手だよね


今日も風車は、のどかな風をその身に受ける。



―――捨てるのもったいないから僕が飾ったんたんだ
―――どっちがどっちを作ったかすぐ分かるわね
―――皆さんどうなさったのですか?
―――練習しなくていいのかよ
―――うぉっといけねぇ!!さっさと始めるぞ!!


そんな彼らを、風車は見つめていた。
どこかの二人のように。
寄り添うように。


静かに、見守っていた。


緩やかに風が吹く、そんな、のどかな午後。





fin.






リクエスト「風車」という事で、書かせていただきました、彼らの午後の一幕。
如何だったでしょうか?
おおかたの流れはすぐに思いついたんですが、
案外形にするのに時間がかかってしまいました。(^^;)

実際苦労したのは二人が風車を思い出すところ。
ソーマとナズナって境遇上過去の話を持って来ようとすると、
ほのぼのでは無く暗い話に流れ込んで行きそうになってしまって・・・。
草案では少しだけしんみりしておりました。(汗)

ではではリクエスト、有難うございました!!

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2005/11/7